Monday, January 28, 2008

世界大会における審査員供出義務について On Responsibility As Participating Universities To Adjudication Pool Of WUDC

先日タイ開催のWUDCに参加された皆様,お疲れ様でした.
その後いかがお過ごしでしょうか.

今年も沢山の方に参加できて良かったですね!沢山の人の長い努力とコミュニティの成熟とが実を結び,日本からの参加は第24回大会ごろから急速に伸びました.それに伴い,国際大会における日本の発言力とレピュテーションも急速に高まってきました.国内では国際大会を視野に入れた選手達の練習機会がようやく整い始めました.本当に喜ばしいことと思います.来年,再来年と遠い開催地が続きますけれども,是非沢山の方に参加していただいて国内でのディベートの認知向上に希望が広がればと思います.

ただし,今回の世界大会では,そうした長期的な参加を図る上での懸案が大変顕著になりましたので,長文で恐縮ですが書かせていただきます.

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1. 8割の審査員がチェアかパネルでなければならない

世界大会には審査員の提供義務が各参加大学にあります.参加チーム数-1人の審査員を参加させることが義務となっている(n-1ルール)ことはご存知のことかと思います.これはひとえに人数の問題ではありません.審査員の質の確保は参加者全員の満足,また予選をフェアだと感じられるようにするための要です.たった1点の差が予選通過するかどうかの鍵になる世界大会では,一試合たりともミスジャッジの疑いは許されません.必要とされる一定の基準をクリアする審査員数を確保できるかどうかが,たとえば大会誘致の際質問が集中する一つのポイントになるほどです.このため,各大学が拠出する審査員では不十分な場合に備えて,自国の審査員育成に巨額をつぎ込む主催者もあるほどです.それほど良質の審査員はコミュニティ全体のかけがえのない資源とみなされています.

世界大会の形式はご存知の通り4チーム対抗です.ですので,4チームに対し3人,基準をクリアする審査員がいれば良いということになります.仮に各大学が参加チームと同数(n人)の審査員を提供したとすれば,全体の参加チーム数(N)と同じN人の審査員が確保されます.この内75%が基準を満たしていれば,全ての部屋の皆が安心して審査を受けられるわけです.実際にはn-1ルールですので,更に高い割合,各大学が連れてきた審査員の80%以上がパネルを任せられる良質な審査員でなければなりません.トレイニーに甘んじるのは5人に1人以下でなければならないということです.(ちなみにトレイニーは,指導やフィードバック,タビュレーションの手間が増える分,貴重なトップレベルの資源(審査員)に更なる負担をかける迷惑な存在と認識されています.今回トレイニーに対する扱いのぞんざいさに驚いたという日本の参加者の声を幾つか聞きましたが,そうした背景があります.)

これは逆に言えば,80%を下回る参加大学は,大会のお荷物と看做されるということです.他の人が提供してくれる資源にたかって,同じサービスを要求する悪質なフリーライダーであるとみなされるわけです.
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2. 負債に喘ぐ国,日本

しかしながら,日本のように言語のハンデを抱える国や,経済的に継続的な参加が難しい国などにとって,80%というのはかなり厳しい水準です.他の参加者に申し訳なく思ったとしても70%程度が現実的な目標かもしれません.

以上のような理由から,審査員の質の低下が問題視される度に,戦々恐々とさせられるのは,日本のような言語のハンデを持つ国や経済的に恵まれていない国,つまりは弱者です.実際,アジア大会では過去に,審査員有資格者(AIDAの国際審査員認定試験をパスした者)のみの参加を認めるべきだという議決がもう少しのところで通りそうになったこともあります.この時は拙いながら慶應代表で評議会に座っていた私の必死の訴えで僅差での否決を得ました.当時AIDA資格を持つ日本人は一人もおらず,もし可決していれば日本からの参加権はゼロになる,それほどの危機だったのです.翌年の評議会で同じ案件が可決されてしまう可能性に備えて,九州大と慶應が共同で急ぎその直後の夏にAIDA資格試験を誘致しました.これが現在のIDC(IntensiveDebate Camp)のはじまりです.

さて,今年の評議会では審査員の質,各大学の貢献度が再び議論されました.審査委員長団(AdjudicationCore),翌年の主催者の両方からかなり厳しい口調で,「まともなBritishParliamentaryの訓練を積んでいない審査員を大量に送ってくる大学/国がある」と非難が飛びました.これは,今回で3回目のことですが,今回はいつにも増して強い口調,かつ複数回にわたる問題提起となりました.

この非難が,誰を指してのものか,申し上げるのは残念ですが,明確に日本です.2004年の世界大会から日本の参加は爆発的に伸びました.その年自体はこうした非難が出なかったものの,翌年以降から継続的にこの声明が出されています.2007年の日本からの参加者は96人,と主催地である北米に次ぐ規模の参加人数,大会の10%をたった一カ国で占めるほどになっているのです.しかし20年近くに渡る日本の世界大会参加歴において,審査員が予選通過したのはたった3回,50人ほどの予選通過者が20年で全体は延べ1000人中の3人です.(昨年のIzumiさんと,一昨年及び本年のMasakoの2名,延べで3名)

これがボツワナやバングラディッシュのことなら誰も咎めません.参加規模があまりに小さく,全体に与える影響も小さいからです.しかし100人近く,40チーム近くを参加させておきながら,パネルとしてフルに使える審査員が5~6人程度という状況は余りにも悪目立ちするのです.

40チーム出すならば30人の(チェアかパネルができる)審査員を出さなければなりません.その基準値の1/5しか満たせなければ,残り20数名の「負債」は誰が払うのか.他の国と主催者ということになるのです.日本は,そうした「タチの悪い参加者」という見方を急速にされ始めています.

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3. 良質の審査員を送ってください

今後,もし世界大会自体が審査員資源に不利益をもたらす国・大学からの参加を制限しようとすれば,ことは特定の大学の問題でも,日本だけの問題でもありません.沢山の機会に恵まれない国々の参加を大きく奪う結果になります.

ですから,どうか良質の審査員を送ってください.こうした背景に目を向けてください.責任のある行動をとって下さい.

では,どうすれば良いのか.
①自大学の熟練審査員を送る(例:2008年ICUはOBのHiromuさんに審査員参加してもらいました)
②自国の熟練審査員を借りる(例:2008年KeioはIsaoさんに慶應名義で審査してもらいました)
③他国の熟練審査員を借りる(例:2005年KeioはTim Sonnreich氏とOmarSalahuddin博士にKeio名義で審査してもらい,両名は決勝戦まで審査しました.両名の参加費の一部を慶應が負担しました)
④新しい審査員を育てる

①は恵まれる大学と恵まれない大学があります.②に該当する審査員の数は限られています.③は大会のメーリングリスト上で募集すれば十中八九応募がありますから誰にでも可能ですが,国内の審査員を育てることにはつながらないので応急処置です.①~③の努力もした上で,大切なのは④になります.

新しい方達を送るなと言っているのでは決してありません.しかし参加が決まった日から,真剣に審査員教育に取り組んでください.できることは沢山あります.できる限りの準備をしてそれでもトレーニーになってしまったとしたら,それは仕方ないことです.新しい審査員を育てるために必要なことです.けれどろくに勉強しないで参加しているのであれば問題です.コールの仕方が分からなかったり,採点方式に不慣れな状態で送るのはやめて下さい.

審査員教育の不備を指摘すると「できる限りのことはやった.審査の仕方を学べる場所が国内にないのが悪い」と仰る方もいます.これは責任転嫁というものです.基準を満たす審査員の拠出は各大学の義務です.

しかも,この点において日本の環境は全く悪いものではありません.機会も情報もふんだんに溢れています.その機会を活用できなかったというのであれば,残念ですがそれはその方の意識が相当に低いといわざるを得ません.

a) 審査方式の説明はWeb上に多く掲載されています.最も有名なのは以下のもの,ルール自体です.googleでWorldUniversities DebatingChampionshipsと入れて検索すればトップに出てきます.ここには明確にスコアがAからEまでのグレードに分かれる旨が書かれています.スコアレンジも知らずに審査に来るということはルールさえ読んでいれば有り得ないことです.http://flynn.debating.net/colmmain.htm

b) Australia-Asia Debating Handbook by Ray D'Cruzの邦訳がJPDUとAJFから出され,無料で配布されている筈です.この本に,大変簡略ではありますが世界大会のルールも述べてあります.そちらの該当箇所(第10章の5ページ)に目を通すだけでも,世界大会ではAffirmative/Negativeといった言い回しは使われないこと,スコア・レンジなどが分からないということは有り得ません.

c) 主催大学が販売する審査員養成用ビデオがあります.例えば昨年のバンクーバー大会はその前のダブリン大会で大々的に3枚組みDVDを販売しました.このDVDの内2枚は,実際のディベートを見せた後にトップクラスの審査員陣による審査のシミュレーションも見せるというものです.残り1枚はQ&Aになっています.これを見れば,実際の審査がどのように行われるか分かる筈です.ダブリン大会に参加した大学は少なくとも,それを買って勉強することができたはずです.もしあれだけ派手に宣伝されていたこのDVDセットを,ダブリンに参加したのにも関らず買わなかったというのであれば,それはやはり審査員養成に対する意識が低すぎるのだと言わざるを得ません.

d) 過去の大会のブリーフィングや試合のビデオが,日本には他のどの国よりも沢山あります.他の国が「是非コピーをくれ」と頼んでくる垂涎のコレクションを有している国,それが日本です.ダブリンに行かなかったのでc)のDVDを入手できなかった,という大学であれば,国内の大会でそうしたビデオのコピーを他大学にお願いするということができた筈です.ルールにどういう試合がどのグレード,とスコアレンジの目安があるのですから,点数の感覚も学べるはずです.

e) ESUJ-JPDUによるセミナー,冬JPDU大会,IDCのような強化講習などBritishParliamentaryの審査方式を直接学び経験する機会もふんだんにあります.

f) 手前味噌ですが,スーパー・ノバ・カップの閉会式前に私から希望者の方に簡単な説明会も開きました.採点方式についても簡略ではありますがスコアレンジも含めて説明しました.世界大会に審査員で参加した方ご自身がその大会にいらしてなかったとしても,参加した方から後で聞くことはできた筈です.

機会はふんだんにあります.それを活用するしないは各大学の責任です.スコアレンジが50-100の間になることや,どんなスピーチがどの位の点数に相当するかを全くご存知なしに世界大会本番を迎えてしまった方がいたとしたらそれは問題です.

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4. ケーススタディ(Keioの場合)

今回Keioでは5チーム5審査員が参加しました.80%を基準とするなら4名がパネル以上に入る必要がありました.

5人の審査員の内,
1名は世界大会で審査員として本戦進出経験のある者,
1名は世界大会でパネルとしての審査経験がある者,
1名は世界大会に選手として参加した経験がある者,
2名は完全な新人 でした.

過去,Keioからの審査員が経験に乏しかった場合,海外の熟練審査員にKeio名義で審査して貰うという対策をとったこともあります.しかし今回は経験者の3名がパネル以上で採用されることが期待できたので,そうした方法は採りませんでした.今回は特に2名の1年生にどれだけ準備してもらえるかが課題となりました.

Keioでは以下のトレーニングを行いました.

a) 9月末から週一回の勉強会と週一回の練習会を開催,原則審査員も参加を義務としました.
b) 11月の学園祭時期には強化練習を5日ほど行いました.
c) 過去の試合のビデオを閲覧用に回しました.解説を交えて一緒に観る場合もありました.
d) タイ入国後も練習試合を行い,審査員も練習しました.

これらの機会には,審査方式の説明を行った他に,各練習試合の後OralAdjudicationでスピーチ得点も発表することで,どの位のスピーチにどの位の点数が着くのか,どの位の試合でどの位の点差がつくのかといった感覚をつけて貰いました.審査の流れ,スコアレンジ,マージンについてレクチャーと実践の両方を事前に経験できるようにしました.

新人2名の内,1名は練習に大変熱心に参加してくれました.
もう1人は欠席が続き,タイ入国1日目にお説教を受け,入国後の練習会はフルに参加しました.

結果,
1名,7試合チェア,2試合バブルラウンドのパネル,本戦進出
1名,9試合パネル
2名,6試合パネル,3試合トレーニー
1名,9試合トレーニー でした.

9試合トレーニーになったのは,事前の練習を欠席していた新人1名でした.

これは5名中,4名の基準をクリアする審査員(2名が3試合トレーニーになってしまった分を1名が7試合チェアし本戦進出した分で相殺する形)を輩出したこととなり,基準となる80%に何とか到達しました.頑張っているチーム達が,「観光半分の審査員しか連れて来ないチームにトップクラスの審査員を振り分けてやる義理はない」という残念な扱いを受けないために,私たち審査員ができる精一杯のことをまとうできたと思います.

しかし,こうしたコミュニティのメンバーとしての責任感を共有せず,無責任な審査員の出し方をする大学が同じ国にいれば,各大学がどんなに努力しても「日本のチーム」と十把一絡げにされてしまう現実もあります.それは本当に努力している大学の足を引っ張る迷惑な行為です.

80%は日本の大学にとって厳しい基準であり,今回のKeioは幸運なケースだったかもしれません.現実問題として70%程度まで目標を引き下げる必要がある大学もあることと思います.また,初参加の大学やあまりにも長いブランクがあったために初参加同様の条件になっている大学であれば,多少目標値が下がっても仕方ない場合もあるでしょう.

けれど,この例で分かることはキチンとトレーニングを国内で積んで参加したかどうかは大きな差を生むということでもあります.努力すれば,世界大会初参加で未成年の審査員でも評価され得るということです.

既に世界大会参加経験がある大学の皆さんには,来年度以降,審査員養成のトレーニングを責任もって行うことを,強くおススメする次第です.

masako

2004-2008: WUDC Equity Officer
2000, 2005: WUDC Council 日本代表
1999-2008: WUDC Council 10年連続出席

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